百歳夫婦・百歳双子など

[名無し]

◇やまなし１００歳の肖像伝えたい言葉 ＜９３＞結婚７６年、紙業支えた夫婦　村松貞雄さん・ちかさん（市川三郷） 「働き通し　いまが幸せ」
2020.01.06　山梨日日新聞　11頁　(全2,008字)　

夫婦になって７６年。互いを支えに戦中戦後を生き、老いを共にしてきた。村松貞雄さん（１０３）とちかさん（１０１）＝市川三郷町市川大門＝は、そろって１００歳を超えるおしどり夫婦。紙の町に生まれ育ち、それぞれの関わりで産業を支えた２人。働き通した人生を振り返り出てくるのは、「いまが幸せだ」。寄り添い、穏やかな日々を過ごしている。〈古守彩〉

　「このお父さんでよかったよ。いいばっかり」。座卓を囲み、少し耳が遠くなった貞雄さんを「耳は東京」と、からかいつつも、そう繰り返すちかさん。貞雄さんは目を細め、優しい笑顔で応える。

　太平洋戦争のさなか、見合いで結婚し、貞雄さんが勤めていた都内の紙問屋のそばに居を構えた。家には、徴兵された親類が連日のように泊まり、翌日の入隊に備えた。時には２０人近くを受け入れる月も。「まるで木賃宿だった」と振り返る。

　その後、東京大空襲で焼け出されて地元に疎開。「貧乏屋でね」。貞雄さんが火の手から逃れる時にまとっていた掛け布団が唯一の家財だった。焼け焦げた跡を繕って軒先に干していたところ、それも持ち去られ、「悔しくて、何日も掛けて近所中を捜し回ったよ」と笑い話にする。

◎人からの信頼

　戦後、貞雄さんは近くの紙屋で働き、ちかさんは商店を開いて家計を助けた。屋号は貞雄さんの名前から取った「貞文堂」。２男２女を育てながら８０歳手前まで続け、「貞文堂のおばちゃん」として親しまれた。

　早朝から仕込むだしの効いた名物おでんは、近くの製紙工場で働く人たちの腹を満たし、昼時は２階の自宅まで人でいっぱいに。「湯飲みと茶わんを置いておけば、みんな勝手に食べていった」とちかさん。「人を寄せるのが好きだった。笑ってくれるのがうれしくてね」と懐かしむ。

　ちかさんは、女子が生まれると「百円工女」と重宝がられた時代に生まれ、尋常小学校を卒業後、嫁ぐまで、郡役所や茨城県の製糸場で「糸取り」に従事した。朝４時に起こされて１日続く過酷な労働だったが、手先の器用さが際立ち「質が良いと褒められて、よく（賃金を）ためた」という。

　「働き者の性分は、きっとその経験から」とおもんぱかる次男剛さん（６２）。長女清美さん（７２）も「いつも動き回っていて、ごろごろしたり、声を荒らげたりするのを見たことがない」。「いい両親に恵まれたね、とよく言われる。父も母も休まず働き、人からの信頼が大きいんです」と２人は口をそろえる。

　貞雄さんは定年まで勤め、その紙屋の大規模化を担った一人だ。「小さな庭があればみんな紙を作っていた」という町の紙屋の生まれで、１０人きょうだいの次男。幼少期は家業を手伝い、尋常高等小学校卒業後はそのつてで、都内の紙問屋に。紙に関わって生涯を働き通した。

◎健康を気遣う

　一方で、若い頃は細身で虚弱だったため、高熱に悩まされて欠勤することもたびたびあった。健康を気遣うのは必然。酒、たばこなどの不摂生はせず、「体にいい」食材を取り入れたり、腹八分目や早寝早起きに徹したりして働く体を維持してきた。

　退職後はちかさんの店を手伝いながら老人クラブの活動や畑仕事、ゲートボール、陶芸など趣味を広げ、人付き合いも絶やさなかった。剛さんはその頃の貞雄さんを思い出し、「カラオケが大好きで人前でよく歌ったが、音の外れっぷりはみんなが拍手を送るほど。その拍手でまた気を良くしてね」と笑う。

　ちかさんも店の傍ら、近所の人たちと旅行にカラオケにと忙しかったが「もう、みんないなくなっちゃった」。いまは月に１度通院し「満身創痍」と言うものの、２人そろって大病はなく、自宅に剛さんと３人で暮らす。清美さんも近くに住み、毎日のように訪れる。「働いてばかりだったけど、みんなよく育ってくれてよかった」と話す自慢の子どもたちと過ごす日々。「いい家庭だったと思うよ。本当に幸せだ」という言葉が、ちかさんの口をついて出て、尽きない。＝月曜日に掲載します

むらまつ・さだおさん　１９１６年１０月５日生まれ。

むらまつ・ちかさん

１９１８年４月１３日生まれ。

　「やまなし　１００歳の肖像伝えたい言葉」に登場できる１００歳以上の人を募集します。

　山梨県内在住で、自薦・他薦、経歴は問いません。氏名、住所、電話番号、生年月日を明記し、郵便番号４００－８５１５、甲府市北口２の６の１０、山梨日日新聞社編集局文化・くらし報道部「１００歳の肖像」係、ファクス０５５（２３１）３１６１、メール（ｓｅｉｋａｔｕ＠ｓａｎｎｉｃｈｉ．ｃｏ．ｊｐ）へお送りください。

　対象者には、電話で連絡します。問い合わせは文化・くらし報道部、電話０５５（２３１）３１１２。

「いい家庭だったね」と笑い合う村松貞雄さん（右）とちかさん夫婦＝市川三郷町市川大門

身延山久遠寺を家族で訪れ記念写真に納まる村松貞雄さん（中）とちかさん（右）。いつも長男が家族写真を撮ってくれた（１９６０年ごろ）